社会貢献で儲けることの意味


パブリックグッド代表の菅原です。

少し前、2chをつくったひろゆき氏がアグネス・チャン氏に
日本ユニセフ協会の募金の送金率について、
公開質問状を送った件がネットを中心に話題になりました。
◆ひろゆき氏のアグネス・チャンさんへの公開質問状が的をえすぎている!

別の日、今度は育英会を運営する日本学生支援機構の利息収入が232億円に達し、
儲け過ぎなのではと批判的な記事が掲載されました。
◆日本学生支援機構の利息収入は232億円――奨学金はサラ金よりも悪質

多くの人が持つ、世のため、人のためになることで儲けるなんざぁけしからん!
という価値観の表れでしょうか、共感している方もずいぶんと見受けられます。

ただ、このテーマの難しいところでもあるのですが、
私は「社会貢献は儲けなければならない」と思っています。

私は先の東日本大震災の被災地・岩手県の出身です。
震災発生から4か月ほど経った頃、叔父の住む三陸・大船渡市を見舞いに訪ねました。
すでにたくさんのショッキングな映像や写真が報道されていますが、
津波被害が甚大だっただけに、その惨状たるや、筆舌に尽くしがたいものがありました。
当地で不自由な生活を強いられる叔父家族にはかける言葉が見当たりませんでした。

ですが、そんな状態でしたが、市内はどこか活気に満ちていました。
世界各国から集結した多数のボランティア、寄せられる数多の支援物資、
急ピッチで建設が進む仮設住宅など、復興への気概があちらこちらで感じられました。

岩手県民であれば知っていることですが、
三陸地方はもともと、地域産業が没落し、過疎化、高齢化が進んでいた地域であり、
その振興は長年にわたる課題でした。

震災によって私たちは実に多くのものを失いましたが、
それと引き換えに、あの時の、いやあの時以上の活気を取り戻そうとする眼差しが
どこか頼もしさを覚えるほどに感じられたのです。

そして3年目の今年も叔父家族を訪ねました。

結論から書くと、今の三陸は震災前の寂れた三陸そのままです。
少なくとも私にはそう見えました。
瓦礫撤去の進捗に比例し、街からはボランティアも自衛隊も何もかもが消え、
支援物資はそれなりで、街の人々は決して暗くはありませんが、
どこか諦念に包まれたような表情をしていました。

先に書きました
「社会貢献は儲けなければならない」の真意はここにあります。

震災はひとつの例に過ぎませんが、
社会貢献活動の多くは、無垢な善意による初動の盛り上がりで
一定のところまでは割とテンポよく進みます。

ところが、誤解を恐れずに言えば、善意は持続しない。
無理からぬところです。私たちにも生活がある。
ずっとそのことだけをしているわけにはいかないのです。

社会課題は一筋縄でいかないことばかりです。
一過性の盛り上がりで解決するなら、恐らくはすでに解決している。
大切なのは継続的に解決に取り組むこと。
そのためには、善意だけに頼らない仕組みづくりが必要なのです。

ひとつの可能性が、企業の参入です。

確かに大手企業を中心に、義捐金や就業支援などの
いわゆるCSR活動を行っているところは少なくありませんが、
個人の善意と同じでなかなか継続が難しい。
本業でギリギリの会社がCSRに投資している状況は株主や従業員に対して説明がつきません。
逆に言えば、本業でめっちゃ儲かっている企業しか、CSRはできないことになり、
かえって社会課題の解決が減速してしまいます。

つまり、企業が広く社会課題解決に参入できるようにするには
事業性・収益性が不可欠なのです。
そこに一定の収益が見込めれば、継続的な仕組みが出来上がっていく。
そのために社会貢献は儲からなくてはならないのです。

一方で、先に挙げたユニセフや奨学金の事例のように
社会貢献で儲けるとは何事か!といった風潮や価値観が存在するのもまた事実です。

それはきっと、慈善を標榜する詐欺が一向になくならないことと無関係ではないでしょう。
あるいは、うまい表現が見つかりませんが、仮に健全な社会貢献活動だったにせよ、
それで儲けることへのある種のやっかみも存在するのでしょう。

目指すべき理想を見据えながら現状を踏まえると、
ソーシャルマーケティングの在り方は今後、変革していかざるを得ないと考えています。
ここでは大きくふたつの提案をします。

ひとつは情報の透明性の確保です。

ユニセフにしても奨学金にしても、
そこであげられている収益がどこに投資されているか、
ざっと見た限り、いまいち分かりません。

財務や会計に不透明感、もしくは分かりにくさが生じた途端に
おかしな憶測ややっかみが生まれます。
その開示なしに、例えばアグネス氏の豪華な自宅が公開されると
内実を知らないものにとって、おかしなやっかみも生まれてくるでしょう。

ユニセフで生まれた19%の利益、
奨学金の貸し付けで生まれた232億円の利益、
彼ら自身の活動を「継続するために」どう使われたのか、
非営利団体であっても管理会計的説明責任は果たす必要がありますし、
それはコミュニケーションの分野で進められる変革のひとつと言えます。

もうひとつは事業活動と社会貢献の関係性の再編です。

一般に企業の社会貢献はドネーション的活動が大半です。
収益金の一部を、というやつです。

ところが先に述べました「継続」という点で、
この方向性にも少し翳りが見え始めてきました。

ソーシャルマーケティングのハシリと言えるキャンペーンに
ボルヴィックの「1L for 10L」があります。
収益の一部を、飲料水に恵まれない地域へ還元するというものです。
◆ボルヴィック 1L for 10L

(株)ソーシャルプランニング代表の竹井氏が
非常に興味深い考察をご自身のブログで展開されています。
◆コーズ・マーケティングの限界

ボルヴィックの1.5Lペットが218円、国内大手の2Lペットが98円という現実。
これをどう捉えるかという指摘です。

生活者の購買行動にはいくつかの欲求階層があります。
当社の提供するコンテクストプランニングでももちろん踏襲してありますが、
だいたい2~3階層位に整理することが多いです。

◆機能的ベネフィット・・・喉の渇きを潤せる
◆情緒的ベネフィット・・・爽快な気分になれる
◆自己表現ベネフィット・・・ドネーションプログラムに参加して社会貢献できる私になれる

ボルヴィックのキャンペーンは、機能でも情緒でも差別化が難しいミネラルウォーター市場で
社会貢献と生活者の自己表現欲求をうまくブリッジさせたものですが、
自己表現ベネフィットに100円以上の対価を払うのかという問題が出てきているのです。

商品や物品の販売収益の一部から社会課題解決へ用いるという視点は従来通り必要ですが、
より広い視点で、企業のバリューチェーン全体を俯瞰してみて
事業活動と社会貢献の接点はないのか、改めて考えてみることが求められています。

例えば、大成功しているトヨタのハイブリットカー「アクア」は
その製品自体の環境性能も然ることながら、被災地・岩手県での全量生産を実現しています。
◆「アクア」が映す復興の道

また多くの流通などで発行されているポイントカード。
一般方が使わないで失効してしまうポイントを寄付金に還元する仕組みで
ビジネスを成立させている方もいます。
◆ひと味違うゾ! 社会を変える”シニア起業”

マーケティングは単に広告やキャンペーン、プロモーションを打つだけではありません。
バリューチェーン全体を見渡し、その中で事業性を見出し、
文字通りマーケット=市場を創っていく。そのことで継続性が生まれます。

この基本的な仕組みを社会貢献に生かさない手はないのです。
そのために、おかしなやっかみや偏見を生まないように、
情報の透明性を高め、事業と社会貢献の在り方を見直していく。
これが社会貢献で儲けることの意味だと私は考えています。


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