やまもといちろう氏の「名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」の意味


先日、私が敬愛してやまない論客・やまもといちろう氏や、私がこの業界に入ったばかりの時にちょっとだけお会いしたことがあり、その後、任天堂のご著書で一躍有名ジャーナリストになられた井上理氏が登壇するセミナーがあると聞きつけて、勉強しに行って来ました。

このセミナーでは「一人のメディアはどこまで行けるのか」というお題目が掲げられ、個人ブロガーやユーチューバー、インスタグラマー、果ては昨今の副業などに絡むディスカッションになるかと思いきや、良い意味で、まとまりなく、雑多に、様々な議論が交わされ、広く情報発信について、大変刺激になったセミナーでありました。ここでは、議論が非常に多岐に渡ったため、私たちのビジネスにも活かせそうな賢察に絞ってレポートします。

※本文中のURLはセミナーでの聞き書きメモをもとに、後日、私が調べて記載したもので、主催者や登壇者から示されたものではありません。

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セミナーのアウトライン
●セミナー名:#メディアミートアップ vol.6 https://peatix.com/event/368501
●テーマ:一人のメディアはどこまで行けるのか
●登壇者:
・Yahooニュース!個人や文春オンラインの連載でもお馴染みのやまもといちろう氏
・この春に日経BPを退職して独立された井上理氏
・メディアミートアップ主催 徳力基彦氏

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その筋では他の追随を許さない大家であられるやまもといちろう氏をもってして「個人のブログで書いていただけではダメだ。メディアに“出店(でみせ)”をする必要性を感じた」という記事がアブラハム問題だったそうです。見返すと、2013年8月のことのようです。

アブラハム「いつかはゆかし」の業法違反と誇大広告(有利誤認)について(修正あり)(修正あり)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20130818-00027346/

そもそも同氏の情報発信の根底にあるのは、「発信したい」という欲ではなく、「知りたい」という知識欲で、特段、どこかに書く予定がなくても色々と調べているのだそうです。で、何か問題が起きそう、あるいは起きた場合に記事を仕上げるようなのですが、世の中に問いかけるべく提言として書いたこの記事は、35万PVと彼の記事としては伸び悩んだのだそうです(個人ブログとしてはすごい数字だとは思いますが)。

個人ブログは“自分”という書き手にある程度、共感をしてくれる人が見に来ているものですが、その見に来ている人はいずれ“年を取っていく”、と同氏は指摘します。そして、この課題意識が確信に変わったのがAppBankの一連の記事でした。記事の日付を確認すると2015年6月のことのようです。

グノシー他、AppBank「モンスト攻略」ブーストでアプリダウンロード数を水増し
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20150613-00046604/

AppBankのキャンペーンは、これまで同氏の情報発信として初めて、全てYahooニュースで論陣を張ったものです。契約上、数字は非公開とのことですが、三桁万PVを稼いだし、反響も大きかったと語ります。

自分のブログだけでやっていると読者が「年を取っていく」という課題意識には、文字通り読者が高齢化することで情報摂取頻度やリテラシー、他への拡散力が低下することのほかに、比ゆ的な意味として、読者の中にある種の“慣れ”が生じてしまい発信した情報に驚きがなくなってしまう、他の書き手のテキストに浮気されてしまう、などが含まれているのだろうと僕は感じました。色々なところに出ていって、「名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」と言い続けないとダメだと考えるようになった同氏はこの頃、必ず記事の最初に「山本一郎です」と書くようになったそうです。

この指摘は僕ら、マーケティングの世界にも多く当てはまります。企業の抱える会員数やオウンドメディアのUUやPVが、メディアのそれを超えることが珍しくなくなってきた昨今、その時点で相応の成功を収めたと言えます。一方で、そこから更に「どかっ」と増えることもなく、高次で安定してしまい、かつ、事業自体もそれなりに回っていることから、読者(マーケティング的に言えば、顧客や消費者)が年を取っていく感じが、ゆでガエルのように見えづらくなっているケースもまた多く散見されます。

その結果、いつの間にか衰退してしまった、あるいはいつの間にか競合の勢いに抜かれてしまった事業がごまんと生まれ、セミナー中に実名で挙げられていたサービスや事業はここでは割愛するとして、この「いつの間にか」に侵されないように、高次安定した時の自分たちの課題を冷静に捉えるのはとても大変なことです。

実際、やまもといちろう氏が課題と感じたくだんの記事「35万PV」という数字は、個人ブログとしては驚異的で、ここに課題を感じること自体が、彼の目線の異様なまでの高さとも言えますが、確かに彼が記事で取り上げた問題の社会性から考えれば、35万程度ではなく、もっと多くの人へ届け、予防なり対策なり、何かしら行動を促すべき情報とも言えます。

換言すれば、自分たちの情報であり事業であり、外へ発信するものは、要するに誰にどんな行動を促したいのか、どんな行動を変えたいのかという、コミュニケーションをする上で、極めて基礎的な部分を客観的に、常に忘れずに追求するということであり、そのために、自社の抱える読者、顧客、会員等の健康的な新陳代謝を、外的要因によってではなく、情報発信者が内的に行動することによって起こすことはとても重要だという示唆と私は受け止めました。転がる石に苔むさずよろしく、「名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」と色々な舞台に出続けるのが、いかに難しく、またいかに重要であるか、改めて思い知らされました。

これ以外に、「記事を掲載する媒体に依存しすぎる危険性と距離感」とか、「個人ブロガーとして訴訟をどう捉えるか、裁判とはゲーセンの対戦型ゲームである」とか、「和解案を受け入れ、俺の記事を勝手に削除したあの媒体」とか「小池百合子さんのあの記事は」とか「あの大手新聞社の原稿料は●万円」とか、井上理氏も含め、貴重な話をたくさん聞くことができましたが、とりあえず、職業書き手を目指すなら、「30分で2,000文字書ける」ことが最低レベルという、超絶に厳しい基準だけをお示しして、私のレポートを締めくくります。

写真は憧れのやまもといちろう氏とご挨拶する30秒ほどの間に、12回ほどお辞儀をした私の後ろ姿です。私のようなどこの馬の骨とも分からないような輩にも大変ご丁寧に接していただきました。

 


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