アスリートのキャリア形成を考える(1)


こんにちは。パブリックグッドの菅原です。

 

去る12月8日、青山学院大学で開催された「アスリートのキャリアについて考える」(主催:青山ビジネススクール、富士通株式会社)というフォーラムに参加してきました。

http://aoyamabs.jp/information/iframe/event_2017/event_21.html

 

私は、開始直前に入室したのですが、200人は入ろうかという大きな教室が6~7割がた埋まっていて、おお、このテーマに関心のある人がこんなにいるのかと軽い驚きを覚えつつ、何か身体の大きな人がたくさん着席しているような気がして、ああ、おれもそうかと思ったりしました。開催冒頭、担当科の先生が「このフォーラムは学生がイチから考え、企画し、運営しているイベントです」との説明がありました。

 

フォーラムは2部構成で、第1部は、アスリートのキャリア形成をテーマに活動されるNPO法人Shape the Dream代表理事の白木栄次さんのご講演、第2部は現役を含む一線級で活躍されていた・いるアスリート5名+白木さんによる「アスリートのキャリアを考える」パネルディスカッションが行われました。

 

第1部では、白木さんご自身が、アメフト選手として全国優勝を果たした後、引退しサラリーマンとなった時のご苦労などを踏まえ、特に学生アスリートにとってキャリア形成が必要な背景や、NPO法人として取り組まれている活動などを、データや事例をベースにご説明されました。

 

たくさん興味深いお話があったのですが、ここでは「学生アスリートにとってキャリア形成が必要な理由」としてお示しされたトピックスをいくつか紹介したいと思います。

※なお、このトピックスは私が聴講中に聞き書きでとったメモをもとに書き起こしましたが、私の字が汚なすぎて読めなかったので、後日、ググって調べなおしました。貼ってあるURLは私が勝手に付記したもので、白木さんがご提示されたものではない点をあらかじめご了承ください

 

●引退平均年齢、Jリーガーは25歳、プロ野球選手は29歳

http://biz-journal.jp/2016/07/post_16084.html

http://npb.jp/npb/careersupport2014_3.html

 

私たち日本人の平均寿命の延びに延び、2016年の統計によると、男性の平均寿命は80.98歳、女性は87.14歳になっています。そして、これからも延びる見込みで、すでに人生100年時代が目前に迫っています。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26HGD_X20C17A7000000/

こういった潮流の中で、このプロアスリートの引退平均年齢はあまりに衝撃的です。しかもこれは平均値です。統計的に見れば、平均値と最頻値は異なるので、実際にはもっと若くして引退するプレイヤーが多く存在していることが予想できます。平均的なJリーガーは引退後、55年という年月を非アスリートとして過ごさなければならない計算になります。

 

●NBA(米プロバスケットボール)選手の60%、NFL(米プロアメリカンフットボール)選手の78%が引退後に自己破産

https://blog.mint.com/how-to/from-stoked-to-broke-why-are-so-many-professional-athletes-going-bankrupt-0213/?display=wide

 

私はNBAマニア(自称)なので、この結果が報道された当時、とてつもないショックを受けた記憶があります。ちなみに補足すると、NBA選手の年俸はスポーツビジネスの本場アメリカでも群を抜いており、平均で7億円を超えています。平均ですよ、平均。以下の記事は昨年2016年のものですが、最高年俸は今年2017年、GSWのS・カリー選手が更新し、1年間で40億円(選手としての年俸のみ。スポンサー料などはまた別)を稼ぎます。

https://forbesjapan.com/articles/detail/14627

 

これだけ稼いでいるNBA選手の60%が引退後に自己破産をするという事実は衝撃です。アメリカの大学バスケット(NCAA)は生徒の学業に大変厳しいことで知られています。以下の記事に詳しいですが、生徒には大会出場に際して成績に一定の基準が設けられており、そこに達しない生徒は、たとえトッププレイヤーであっても出場することができません。またチーム全体の成績も重視され、ひどいときには大学としてのリクルーティング枠に制裁が加えられることもあります。学生アスリートの学業に厳しいアメリカでさえ、こうした自己破産の問題が起きています。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110530/220306/?P=2&mds

 

●運動部所属の学生の50%が将来、指導者やコーチなど競技に携わる仕事に就きたい

これはNPO法人Shape the Dreamの独自調査だったと思います。小さな子どもに将来なりたい職業を聞くと、「先生」や「ケーキ屋さん」といった、自分が見知っている職業を挙げる傾向にあります。この調査の対象には高校生や大学生など、ほどなく自身の将来を決めなければならない学生を含むわけですが、四六時中一緒にいるコーチや先生、あるいはその競技の世界が、そのまま学生アスリートの全世界になっていることを示す端緒であるように感じます。

 

●バッシュを履く人だけがバスケットに携わる仕事ではないよ

こうした背景を受け、NPO法人Shape the Dreamでは学生アスリートのキャリア形成のために、各学校に出向いてワークショップを開催しているそうです。私は特に、小学生にバッシュの画像を見せて、「この“バッシュ”に関わる仕事にはどんなものがあると思うか?」とみんなでディスカッションするワークショップにことさら惹かれました。

 

白木さんは「バッシュを履くプレイヤーだけがそのままバスケットに携わる仕事と捉えられがちだが、バッシュをデザインする人、それを製造する人、バッシュをお店に届ける人、お店で販売する人等、バッシュひとつでもこんなにたくさんの仕事があるんだということを示したい」と言います。ああ、なるほど、こういう方法があるのだと大変感銘を受けました。

 

第2部では、白木さんがモデレーターとなって、一線級で活躍されている・いたアスリートの方5名を招いたパネルディスカッションが行われました。ご登壇は以下の方々で、いずれも歴々たる実績の持ち主です。

 

齋藤 学氏  プロサッカー選手(横浜・Fマリノス、ブラジルW杯日本代表)

高山 勝成氏 ボクサー(元ミニマム級世界チャンピオン)

塚原 直貴氏(元陸上選手、北京2008オリンピック400mR銅メダリスト)

有明 葵衣氏(元バスケット選手、ユニバーシアード日本代表)

森山 瞳氏 (元ライフセイバー、青大卒)

 

こちらもそれぞれ、示唆に富んだ発言がたくさんあったのですが、紙幅も限られていますので、特に印象的だったコメントをふたつだけ取り上げたいと思います。

 

●高山さん「自分が覆したかった」

モデレーターの白木さんが各種目の引退後のキャリアを尋ねられた時、ボクサーの高山さんが「ボクサーの場合、スポンサーさんのところにお世話になることが多い。例えば、土建屋さんで肉体労働として雇ってもらうとか、xx(菅原自主規制)の用心棒になるとか」と、事もなげに結構驚くような内容をお話しされていました。

 

高山さんは日本人で初めて、主要四団体(WBA・WBC・IBF・WBO)で世界チャンピオンになったファイターです。20歳くらいで王者になった際、記者から色々質問を受けたが「うまく答えられず」、色々とお金まわりのこともあったのかもしれないのですが「お金の計算もできず」といった原体験があり、これではまずいと思われたそうで(高山さんは中卒でボクサーになったようです)、なんとそこから10年後の30歳で高校に入学、34歳の現在、大学に通われています。

http://www.hochi.co.jp/sports/boxing/20170228-OHT1T50107.html

 

「ボクサーは純朴な人が多く、世の中のことをあまり知らないままプロになり、引退すると周りの悪い大人にそそのかされてしまうケースがある。それを自分が覆したかった。自分は大学を卒業したら教員になりたい。それも体育ではなく社会の先生なんです」と、誠実な口調でお話しされていました。

 

●齋藤さん「アスリートは夢や憧れにならないといけない」

サッカー選手として華々しい経歴の齋藤さんはパネルディスカッションの中で、「僕らのようなプロは子どもたちの夢や憧れにならないといけないと思う」とコメントしています。これは、日本代表という看板を背負い、かつ、現在、全治8か月の大怪我をしていながら「ロシアW杯の選考に間に合わせるために5か月で治して復帰したい」と語るスーパーアスリートのひとつの責任でもあると考えます。

https://web.gekisaka.jp/news/detail/?227033-227033-fl

 

その通りです。国旗を背負うクラスのアスリートは「夢」や「憧れ」にならなければなりませんし、現役のアスリートには積極的にそれを発信していただき、次世代の「齋藤 学」となる少年たちの目標になってもらえればと思っています。

 

そして、一方で、あえて誤解を恐れずに書けば、この「夢や憧れ」といった善意のみが子どもたちに伝わることが、結果的にアスリートの選択肢を狭めてしまう可能性があると、私は考えています。

 

そもそも、単なる零細PR会社経営者にすぎない私が、こうした「アスリートのキャリア形成」にどうして関心をもっているのか、そして立場をわきまえず、日本代表の善意の発言である「夢や憧れ」といったコメントにいちゃもんをつけようとしているのか、甚だ僭越ながら、私自身の原体験を振り返ることで、お伝えできればと思います。

 

(2)に続きます。


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