■プロジェクト概要:
石油化学企業イネオスが冠スポンサーとなって開催された「INEOS 1:59 Challenge」。
日本の村山紘太選手を含む、NIKE契約のトップランナー41人がペースメーカーとなるなど、様々なサポートを受けながら、エリウド・キプチョゲ選手が、1時間59分40秒(非公認)のフルマラソン記録を達成した。
キプチョゲがマラソン2時間切り 非公認も「サブ2」達成で祝福殺到「生きる伝説」
マラソンの世界記録保持者、エリウド・キプチョゲ(ケニア)が前人未到の2時間切りを達成した。12日にオーストリア・ウィーンで行われた「マラソン2時間切り(サブ2)」に挑む同選手のイベントで、1時間59分40秒(速報値)をマーク。国際陸連の非公認レースのため、世界記録には認定されないが、ついに人類が2時間の壁を破った。キプチョゲが自身ツイッターにゴール時の動画を投稿すると、「なんて偉業なんだ!」…
記録達成が達成された2019年10月12日には、翌々日にあたる14日には、国内の民放情報番組、TBS「あさチャン!」「ひるおび!」「Nスタ」、テレビ朝日「グッド!モーニング」等でも大きく報道された。
この偉業達成のおよそ2年半前、米ナイキが2016年12月13日に発表した
プロモーションプロジェクト「Breaking2」によって、この前身となるレースが2017年5月に開催されている。
このプロジェクトで、NIKEは挑戦ランナーのために特別仕様のランニングシューズを開発し、米国で発売。なおエリウド・キプチョゲ選手は、この時のサブ2挑戦で、2時間00分25秒で完走するところにまで迫った。
■なぜ「いいなぁ」?:
夢がある、一言でいえばそれに尽きる。
このプロジェクトのことを知ったとき、プロジェクトメンバーの面々が、『自分たちは、こんなことが出来るんじゃないか』と、枷を取り去って、想像力をどこまでも伸ばしていく様子を脳裏に描かずにはいられなかった。
PRプロジェクトを考えるとき、こんなことが出来たらどんなに素敵だろう、と想像を膨らませて企画案を作り、クライアント様にご提案をすることがある。
ただ、多くの企画は、「いや、そこまでのことはウチでは出来ないよ」とお蔵入りになってしまう。
それはそうだ、ひとつの企業が提供できる課題解決のソリューションは限りがあり万能ではないのは当たり前で、世の中に約束できないかもしれないことを情報発信していくことに慎重になるのは誠実さの裏返しとも言えるだろう。
けれど、それを続けていけば、自分たちは何者で、何ができて、何に誇りと自負を抱いているのかは、見づらくなってしまうとも思うのだ。
あいまいな比喩的表現だが、パブリックコミュニケーションは、「自分たちはこういうもので、こういうことができます」と世の中に挨拶し、伝えていくことだと私は思う。
そして最も危惧すべきは、一緒に伴走する我々代理店が、先回りして慮って、「できること」だけを提案するようになってしまうこと。硬直し小さくまとまっていくことだと思っている。
お付き合いの長いクライアント様になればなるほど、「前例があるから、これならお客様が社内で通しやすそう/通しづらそう」「どうせこれを出しても通らないだろう」が無意識に沁みついて起こりがちで、自覚と自戒を持たねばならないところではないかと思う。
ここまでの大がかりなプロジェクトには、大手代理店をはじめとする関与者の様々なテクニックや、大規模な商談(大人の事情)、投資に値すると判断するまでの途方もないくらいの多岐にわたる計算や計画、そういった「実行フェーズにおける裏話」があったのだろう。
ただ、いまはそこに私の興味はない。なんだったら、私が感銘を受けた点が、主催者のまったく意図しないことであったとしても構わない。
このプロジェクトから得たいのは、「自分たちはどこまでいけるだろう」と夢を見るための、その原動力になりさえすればよいのだ。
NIKEのプロジェクトであるからには、当然同社のシューズを履き、ウェアを身に着けて挑まねばならない。
これ以上ないほどの才能と鍛錬を積んだ世界記録保持者を、まだここからサブ2まで伸ばせる状態に持っていくシューズを作り、履かせ、走らせるというのは、ある意味ではとても怖いことではなかっただろうか。「他社のものなら達成できたのに」という事態だって考えられるのだから。
まして、CNNの報道によると、「人工的な条件に批判がある」中で、それでもプロジェクトに賛同し全力を尽くすというキプチョゲに履かせるシューズなのだ。自社への誇りと自信あればこそだろう。30年以上使われ続けるブランドスローガン「JUST DO IT.」を想起させるところでもある。
2017年5月、エリウド・キプチョゲ選手が2時間00分25秒で完走したことがきっかけで、トップランナーの間では「NIKEの厚底シューズブーム」が起こっている。それを証拠づけるように、2020東京オリンピックのマラソン日本代表4人のうち3人までがナイキの厚底シューズだそう。
つくづく素敵な話だ。
参考:https://www.asahi.com/and_M/20191004/6038780/
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